※このブログには、ゲーム「OMORI」についての重大なネタバレが含まれます……
OMORIでは、何気ないところに興味深い事実が隠されていることがある。例えばレモンに。
「SUNNYはレモンの名前を知らない」という説がある。OTHERMARTで黄色い果物を調べると"Oragnes. Oragnes but yellow."というメッセージが出る(この文章どうやって訳すんだろう?)*1
また、ORANGE OASISにいるORANGE JOEからは「双子の弟ORAGNE JOEがいるんだ」と聞かされる。正直これ誰もが一度は妄想するであろう「自分に生き別れの双子がいたらどうする?」というネタだと思っていたので、本当にORAGNE JOEが地中に埋まっているのを見たときは笑ってしまった。
いやレモンじゃん。
こういったわけで、一時期「SUNNYはレモンのことをOragneと呼んでいる」という考察が出され、それに基づくコミックとかも作られたりしたのだが、どうやらそれは違うようだ。
SUNNYはレモンが何なのかは知っている。ただ、彼は認めたくないのだ。
"When life gives you lemons , make lemonade"というフレーズはアメリカ文化で良く聞くもので、意味合いとしては「逆境にもめげず努力しろ」という意味になる。レモンが酸っぱいことから「人生の苦難」を表すものとして扱われている*2。
同じくレモンに関する言及が、WISE ROCKのアドバイスの中にも含まれている。
SUNNYは「レモンを与えられたらレモネードを作れ」という言葉は知っている。だがHEADSPACEにはレモンは存在しない(レモネード売り場にイラストまで描いてあるのに)。
更に言えば、写真アルバムの中の一枚で、SUNNYはレモン味のアイスを食べている。
根拠は薄いが、ここからレモンがSUNNYにとってむしろ好きな果物であったと考察することはそう間違ってもいないと思う。
こうしてゲーム中のレモンについての言及を集めてみたが、ここからどんなことが言えるだろうか。
おそらくSUNNYはBASILに言われた"Everything is okay"という言葉に縛られているのだと思う。HEADSPACEはSUNNYにとって一番都合の良い空間で、「この世界に心配事は存在しない」とまで言われる場所だ。そこに苦難、あるいは「解決すべき問題」としてのレモンは存在しない。
SUNNYは「全部うまくいくんだ」と自己暗示をかけている*3。だからスーパーマーケットでレモンを見つけても「これはoragneだ」と言い訳をする。「自分は何もかもが上手くいっていて、心配すべきことなんてなにもない」、だから「レモンは自分の知らない何かで、これはoragneだ」と。
レモンの味は好きだから、HEADSPACEにレモネードスタンドはある。レモンのキャラクターもいる……ただ"oragne"と呼んでいるだけで。
oragneという名称からは、SUNNYがorangeに特別な感情を寄せていることが分かる。orange(ORANGE JOE)とはKELの象徴である。彼がいつも明るく、「希望と活力(Hope and Vigor!)」に満ちていることへの憧れが、レモンの改名先として「オレンジのようなもの」を選ばせたのだろう。
ORANGE JOEがORAGNE JOEを見つけるというイベントは、その通り「SUNNYのことをKELが見つけて、また友達になる」という願望を反映させたものと言えるかもしれない。そして現実でも、KELは数か月にわたってSUNNYの家をノックし、SUNNYと再会しようと頑張っていたのだ。
……レモンネタで何か書くとしたらこんな風になるだろうか。やっぱりKELっていい子だよね。
後記:EMOTION CHARTについて
割と有名な話だが、このブログでは紹介していなかったので。
HEROが序盤に渡してくれる感情表(EMOTION CHART)だ。かわいい絵柄で感情の三すくみを表している……のだが、疑問に思うことがある。「なぜこのキャラクターなのか?」と。
担当するスキルについていえば、対応するのはそれぞれ「OMORI - SAD, AUBREY - HAPPY, KEL - ANNOY, HERO - NEUTRAL」であり、このチャートの中身とは一致していない。
これについては、すでに有力な説がある。「各キャラクターのMARIが死んだ後の気持ちを表した」というものだ。
www.reddit.comMARIが亡くなった後、KELは新しい友達を作って努めてHAPPYになろうとした。HEROは(KELの話によれば)MARIが死んだ後一年はベッドから出ようとしないほど悲しみ、現在でもその気持ちを忘れていない(MARIの墓参りに行ったときの表情)。AUBREYは表面的にはMARIがいなくなっても元通りに暮らしているような友人たちにショックを受け、怒りを抱いていた。
SUNNYはNEUTRALだった。ニュートラルが決して「普通の感情」だけを意味するのではないことは、SPACE EX-HUSBAND戦から分かる。氷のように冷たくなった彼の心にはどんな攻撃も届かず、彼の思い出に対応する感情を与える必要がある。
うつ病の主要な症状として知られる「アパシー」という状態は、本来何らかの感情を感じるべき場面で、何も心が動かされなくなった状態を指す。これがSUNNYがMARIのいなくなった後に陥った状態であった。OMORIという感情を押さえつける「重り」を取り除くことで、初めてSUNNYは涙をみせる。
先ほどのRedditの記事では、BASILの表す感情がAFRAIDである、という指摘もされている。「すべてが上手くいく」という思い込みからは排除されている(ためEMOTION CHARTには載らない)が、確かに存在する恐怖。それは罪の隠蔽に加担したBASILが常に感じていたものでもあった。
次回:登場人物だれか一人について掘り下げた記事を書いてみたい
*1:ちなみに「これはレモンじゃなくて黄色いオレンジの一種(本当にそういうのがあるのかは知らない)じゃないのか」という意見もどっかで見かけたが、ORAGNE JOEの先端が尖っているということはこれはレモンでしょう
*2:やはり私にはPortal 2で同じフレーズが印象的に扱われていたのが思い出される。
*3:There is nothng here.の例で見られるように、SUNNYは「信頼できない語り手」である。「OMORI」のうまいところは、最初SUNNYが物言わぬ主人公、プレイヤー自身を投影できるような人物であるかのように見せかけて、実は裏では様々な感情を抱いている(が抑圧している)ことが自然に明らかになる点だ。