※このブログのすべての投稿には、ゲーム「OMORI」についての重大なネタバレが含まれます
「実は書かないでおきたい考察記事」第2弾。
特に"Every Kel meme is canon"「あらゆるケルのミームは公式設定だ」という言葉が流通しているKELについて、これが正しい!みたいなことを言ったらほとんど恥である。KELは何をしても良い。Orange Joeにまつわるジョークを飛ばすのもよし、あらゆる陰鬱な場面を突飛な行動でぶち壊してもよし、AUBREYにギャグ漫画パンチを食らって盛大に吹っ飛ぶもよし(これは本当の公式)
あるいは、
心の内では様々なことを考えているが、決してそれを表に出さないキャラクターだと考えるのも。*1
KELはゲーム中最も一緒にいる時間が長いキャラクターだが、彼が自分自身について語るセリフは非常に少ない。特にTHREE DAYS LEFTの午後、FARAWAY CEMETERYにおけるモノローグを見るのと見逃すのでは、彼の捉え方は激変するだろう。*2このイベントはKELについて考察する文章ではいつもベースとなっているし、いくつかのKELについてのファン作品やAlternate Universe(平行宇宙、物語のIfを追求する二次創作の総称)ではKELが闇を抱えている……特にHEROとの関係性について語られない「何か」が存在していることが前面に押し出されている。
今回の記事では、なるべくKELについて言及されたイベントをまとめつつ、私なりの彼の気持ちの推測を述べていこうと思う。性質上、解釈違いが発生しやすい記事になることはご容赦願いたい。
しかし、本編に入る前に紹介しておきたいことがある。
HEROとPLUTO
HEROについては実は語るべきことはほとんどない。彼の深い悲しみについては先程言及したKELの言葉で伝わるし、彼が責任感の強い人物であること、それゆえMARIの死の兆候に気づいてやれなかったことに後悔を感じていること、MARIのことを今でも愛していることはストーリー中で明確に示されている。
だが、一つだけわからないことがある。
ONE DAY LEFTでKELの家に行くとHEROが蜘蛛を見つけて固まってしまう、というイベントがある。なぜかこの時のHEROの顔は、HEADSPACEのPLUTOの顔にそっくりだ。
このことには以前から気づいてはいたのだが、どう解釈すればよいのか分かっておらず考察は放置していた。だがRedditの投稿を見ていると、こんな解釈をしている人がいた。
www.reddit.comこの投稿によれば、「PLUTOはHEROの強さと正義を表している」ということだ。PLUTOはFLEXをKELに教え、体力勝負を挑むなどKELとの関わりが多いが、現実世界ではKELがHEROと腕相撲をする(が負けてしまう)という写真がアルバムに残されている。
またPLUTO'S SPACELINEで移動するとき、KELはいつもPLUTOの左脚につかまり、振り落とされまいとしている。KELが何でもできる兄に取り残されそうになっていたことは現実世界編でも常に示唆されている。
おもちゃやフィギュアに囲まれたCAPT. SPACEBOYの部屋を抜け出したPLUTOは(「HEROはこの手の本(漫画)に興味持ったことなかったなあ」とはKELの言葉である)、自身の夢である宇宙輸送軌道(spaceline)を実現させる。HEROは同じく料理人になる夢を追いかけるか迷っていて、MARIからは後押しを受けていた。MR. JAWSUMにとってHEROとPLUTOは同じくらい「完璧な従業員」であり、雇われたPLUTOは私情に動かされることなくOMORIたちを断罪しようとする。二人ともOMORI/SUNNYにとって保護者のような存在であり、旅の中で良き助言をしてくれる。
さらに言えば、HIKIKOMORIルートで行くことができるBLACK SPACE 2には涙を流すPLUTOが登場し「そのままにしておこう」というメッセージが表示されるが、これもKELの話の中にあった、ベッドの上から動こうとしないHEROを連想させる。
PLUTOが「HEROの(体力的な)強さ」、「HEROから受ける制裁」を表している、という考察は非常に興味深いので、ここではさらに奥深くまで掘り進めてみたい。なぜHEADSPACEのHEROはあんなにもひ弱なのだろうか?
現実世界のHEROについては、実は運動が苦手であるような描写はほとんどない。KELとの腕相撲には歴然とした力の差を見せ(12歳と15歳の勝負なのだから当たり前かもしれないが)、かつてのFARAWAY PARKの湖ではKELと一緒に島と岸の間をジャンプして遊んでいた(SUNNYは失敗して湖に落ちたが)。TWO DAYS LEFTではBASILとSUNNYを独力で湖から救い出し、さらに「公園に来るまではジョギングをしていた」という発言まである。
「現実のHEROは実は運動もできる」と仮定すると、更に2点考察することができる。
一つ目。なぜHEADSPACEではHEROの強さは本人から分離され、PLUTOに負わせる形になったのか。勿論SUNNYがHEROからの裁きを恐れていたから力を奪おうとした、というのも理由の一つだろう。だが、私が思い出すのは、HEADSPACEのKELが写真の中でORANGE JOEの代わりにMILKを飲んでいたことだ。
TWO DAYS LEFTの夕方、背比べに勝った*3現実世界のHEROは言う「それはお前、あのいつも飲んでるオレンジ・ジョーのせいだよ!カフェインは成長に悪いって知らないのか?」KELは言い返す「オレンジ・ジョーは牛乳とバランスを取るために必要なんだ!」
SUNNYはHEADSPACEのKELを、牛乳が好きな人物に改変した。それはなぜか。
SUNNYはKELの望み…いつかHEROより大きくなりたいという望みを叶えてあげたいのではないだろうか。HEADSPACEでは時が止まっているから、KELがHEROの身長を追い越すことは決してない。だが、それだからこそ、「そのままだと叶わないであろう望み」を叶えさせるための努力を夢の中ではKELにさせてあげようとしているのではないだろうか。*4
そう考えてみるとSUNNYが夢の中で叶えさせてやろうとしたもう一つの夢、それは「何か一つでもKELがHEROより優れているところを見つけてあげる」ことだったのではと思えてくる。HEROが極端に運動オンチに設定されている反面、夢の中のKELはおかしなぐらい体力があり、足が速いことが強調されている。勿論SUNNYがKELの足の速さに感心していたのは間違いないだろうが、すぐ疲れ果ててしまうHEROと対比になっていることは見逃せない。夢の中のアルバムには、HEROとKELの腕相撲の写真はないのだ(その後の"Ah, brotherly love..."の写真は残っているのだから意図的な検閲である)。
HEADSPACEはSUNNYにとって理想的な世界だが、同時にSUNNYからKELへの思いも反映された世界なのだ。
そして、もう一つの考察。現実世界のHEROはありとあらゆる分野で1位を獲得するようになった(数学オリンピックからホットドッグの早食い競争まで)が、運動関連では一つもトロフィーを取っていない。
これも、KELの証言、「HEROはMARIの死のショックから立ち直った後、すごい勢いで色んな分野に挑戦するようになった」という言葉から推察できる。HEROはKELとの喧嘩の間、酷い言葉を投げかけてしまい、そのことを後悔していた。それが何だったのかはKELが忘れてしまったのでわからないが、恐らくはMARIの死への態度が中心だっただろう。だが、その口論の中でHEROの「自分は弟より優れている」という思いが表に出てしまい、それがKELを傷つけたのだとしたら、どうだろうか。
HEROが真剣にスポーツに取り組んだ時、どちらがより優れているのかは分からない。だが、そもそもKELが努力している分野には一切挑戦するのを避けて、比較されてしまうのを避けたのだとしたら?
……
ちなみに、私はKELの両親についても思うところがある。二人ともKELとHEROのことをよく気にかけていて(母親はSALLYの世話で少々過敏になっている節があるがこれは仕方ないだろう)、とても良い親だと思うのだが、KELにとって未だに忘れられない言動…「二人とも泣いている自分を放ってHEROのほうに駆け付ける」といったことをしそうには思えないのだ。
何があったのか。
妄想。KELの両親は元々教育熱心な方で、成績が優秀だったHEROには是非医者になってほしかった。そんな中HEROがMARIの事件の後ひきこもりになってしまう……隣の家の不幸も気の毒だったろうが、それ以上に息子の容態が回復せず、進学が危うくなりそうなことにストレスを抱えていたのではないだろうか。元々成績が悪かったKELのことなどもはや眼中にない。
KELとの喧嘩の後、HEROは泣いている彼を見て今までの行動を後悔し、彼のことを守らなければと思うようになる。HEROは両親に言う。自分はもう大丈夫だ。前から言われていた通り勉強して医者になる、料理人の夢は諦める。だからこれからはKELのことをもっと気にかけてあげてほしい。もっとサポートを必要としている彼のことを大事にしてあげてほしい。
今までの遅れを取り返すかのように勉強と課外活動に精を出し始めたHEROに強く説得され、両親はKELに対してより優しく接するようになった。
……というような背景を想定したが、(もちろん裏付けなどはないものの)いかにもHEROが言いそうなことではないだろうか。
KELと競争心
・「なんでもできる兄/弟」が出てきたら、もう一方の兄弟には強いコンプレックスが絡んでいるだろう……というのは、創作を読むうえで真っ先に想定すべき点である。兄
特にKEL/HEROの部屋については明らかに「部屋がぐちゃぐちゃなKEL」「整頓されて大量のトロフィーをコレクションしているHERO」で対比がなされている。これでKELが(言葉にすることはないにせよ)HEROに対して何も思っていない、ということはないだろう*5。
・ただし、KEL自身はHEROに対して嫉妬心は抱いていないように思える。
・KELに対する仮説。どんな分野でも優秀な兄に勝てない(HEROが興味を持たないゲームについてはSUNNYに勝てない)ことを悟ったKELは、4年前とは違い、兄に勝負を仕掛けようとはしなくなった。
ただ自分が勝てるチャンスがある勝負は今でも挑もうとしている。それが身長比べであり、SUNNYがPET ROCKを入手した直後に仕掛けてくる勝負なのだろう。
・ホットドッグ早食い選手権だけKEL、HEROの二人で参加しているのは「これなら兄に勝てそう」と思ったからではないか?
結果またしても優勝するHEROと参加賞しか貰えなかったKEL。だがHEROがトロフィーを他のと同じく床置きしているのに対し、KELがメダルを額縁に入れてまで飾っているところに彼の気持ちが窺える。*6
・PET ROCKについては「たまたま俺も持っているんだ」と言っている割に最初から装備しているし、FARAWAY PRAZAの四天王について妙に詳しかったりと怪しい点があり、「実は普段からよく遊んでいて、ブランクのあるSUNNY相手なら勝てると思って勝負を挑んだ」のではないかと勘繰っている。
・ONE DAY LEFTでSUNNYたちがKELのゲームに熱中している間、ずっとベッドで寝ているのも「SUNNYとゲームの腕を比べたくないから」じゃないかと思っている*7。
・KELとバスケットボールについて。
BLUE-HAIRED GIRL (CRIS)によれば「KELは高校3年生のバスケットボール代表チームに入ろうとしている」*8とのこと。それを受けての返答。「多分上手くなってると思うけど、自分では分かんないや。君の水泳と同じぐらい練習していたら、もうちょっとチャンスあったんだけどなあ……」
この会話だけでは「KELは言葉通りあまり練習していない」のか「練習は沢山しているが、自己評価が低く代表に選ばれると思っていない」のかは判別できない。しかし、いずれにせよ彼が大好きなバスケについても「一番になれる/なろう」とは思っていないことが分かる。
・KELは家では練習をしていないのでは?という疑いがある。
KELの家に置かれたゴールリングはMEMORY LANEの記憶では庭の中にあったが、現在では道路の端に置かれている。SUNNYも言う通り練習するには危険な場所だし、恐らく今ではもう使っていないのではないだろうか(移動した理由としては、HECTORが大きくなって外に犬小屋を作ることになり邪魔になったことと、練習中に誤って壊すといけないから、といったところか)。
一応KELの部屋の中にもバスケ用のリングが備え付けてあるが、インテリアのようだしSALLYが生まれて大きな音が出せない、と言ってるため練習用ではないと思う。
・ONE DAY LEFTでTREE HOUSEに入ったときKELが言う「俺、トランプは一番上手かったよなあ」という言葉。MEMORY LANEの記憶では負けているし、BASILには「全然表情を隠せてないよ!」と言われるしで、本当に上手かったのかは定かではない。
これに限らず、KELには「都合の悪いことをすぐに忘れる」場面が非常に多い。
・優秀な兄と比較されるのを避け、一番になることを諦めている、そして勝てる見込みがない限り競争に参加しない、というのが私の思うKELの人物像である。
だが、KELが諦めなかったこともある。SUNNYの母親によれば、SUNNYが家から出てくる気配は全くなかったにも関わらず、KELはもう一度会うために過去数か月にわたって家を訪ねていたという。
何が違ったのか?
KELについての考察はまだあるが、長くなりそうなので一旦ここまでとしておく。次回はKELの家庭環境についてもう少し掘り下げてみたい。
後記:
これもっと早く気付くべきだったなと思ったのは、「HOSPITALの病室の配置がFARAWAY TOWNそのまま」であること。
SUNNYの部屋は上の廊下の一番左、BASILの部屋は下の廊下の右側にある。
HEADSPACEの3人組が向かった先(屋外のベランダ)はFARAWAY PARKに相当する。
=20
*1:私は初回プレイのときKELが墓地で呟くイベントを見逃した。だが、実を言えば最初から「KELは決して自分の本心を話さないな」と疑いをかけていた。DDLCをプレイして以降、笑顔の絶えないキャラに対する読み解き方が変わったのも関係しているだろう
*2:ついでに言うと、英語圏の実況プレイのアーカイブを見ると毎回視聴者がKELの会話を見せようと執拗に誘導する事態が起こっているのだが、良いことではないと思う。あの会話は「見逃しやすい」ことに価値がある──私たちは常に友人達の本当の悩みに気づいてやれるわけではない、ということを実際に示している──からだ。勿論、実況者が口出しを禁止している場合は言うまでもない。
*3:私は巷で言われる「KELは現実世界でも背が低い(2択でKELを選んだときはお世辞)」という説の支持者である。
*4:ある意味でこれはSUNNY自身の裏返しである…KELが身長を伸ばしたいのに牛乳を嫌がることと、SUNNYが自身の罪から逃げようとすることは(問題の大きさはまるで違うが)本質的には一緒である。自分自身より他人の問題については冷静に見つめられる、というのは誰しも経験があることだろう。
*5:一応面積については半分ずつ占有しているようだが、HEROのトロフィーが真ん中にあるため平等ではない。また、KELの持っているフィギュアは部屋の中に納まらず、棚が外に置かれている。
なお、この部屋についてDeltaruneに元ネタがありそう、というコメントを見かけたがまだプレイしていないので詳細は不明。
*6:この参加賞についてはもう少し詳しい分析をしている人が確かtumblrにいて、今回引用しようと思って探したのだが見つからなかった。残念……
*7:というか最初はこのイベント、AUBREY, SUNNY, HEROの3人で対戦しているのかと思っていたが、よく見るとHEROはコントローラーを持っていないっぽい?SUNNYが一人でプレイしている横で盛り上がっているというのが正しいのかも。
*8:"junior varsity basketball team"とあるが、多分このjuniorはアメリカの4年制高校における3年生のこと。KELの推定される年齢(16歳)とも合致する。