OMORI考察まとめ

みんなOMORIやろうぜ 英語版の内容に基づいています

OMORIの元ネタ探し&THE MAVERICK

OMORIは製作者OMOCATが明言する通り、いわゆる「マザー派生」「ゆめにっき派生」のゲームだ。*1

また、OMOCATはインタビューで、日本のサブカルチャーに多大な影響を受けたことも明らかにしている*2

これは(インディーゲームらしいともいえるが)あまり見かけない対応である。あらゆる文化はそれまでの文化からかならず影響を受けるとはいえ、直接的なインスパイア元については言及を避ける──たとえそれがいかに明白であったとしても──のが通例だ。

 

たとえば、初代「ポケットモンスター」についてはどうだろうか?ポケモンが先行するマザーシリーズ(特にMOTHER2 ギーグの逆襲)に影響を受けていることはよく知られている。たとえば

・現代の都会が舞台

・十代前半の子供が旅に出る

・主人公の父親が不在

といった両者に共通する要素を見出すことができるし、ゲームプレイを通してもその「雰囲気」が似通っていることはすぐにわかる。にもかかわらず、両者は決して混同されることはない。ポケモンの育成システム、収集要素、通信対戦といった新たな側面がその後のシリーズでは強調され、逆にMOTHERから引き継いだ部分……現代社会の風刺、サブカルチャーへの言及、反社会組織との戦いといった要素は次第に後方へと引っ込んでいった。

それは時代が進みゲームの内容に社会規律が求められるようになったこと(スロットマシンの廃止)*3、あるいはポケモンブランドが大規模になるのにともなう内容の刷新(ポケモン世界にはインドぞうは存在しない)が原因だが、ポケモンを「独立した作品」として定義したことでもある。発想元はカプセル怪獣であっても、決してそんなことは明言しない。「ポケモン」は他から分離した、閉じた世界に収まるようになった。

 

ゆめにっきはどうだろうか。こちらにも、先行するといわれる作品がある。初代プレイステーションのために販売された「LSD」がそれだ。

LSD (ゲーム) - Wikipedia

わたしが知る限り、ゆめにっきの製作者がLSDとの関連性を明言したという話は聞かない。*4しかし、その強烈なゲーム性……見る人を不安にさせるグラフィック、隠された要素、目的のない探索、唯一存在する特徴的な敵(黒い紳士と鳥人間)は多くの人が一致すると認めている。しかし、ゆめにっきはゆめにっきで世界観として完成しているのだし、インスパイア元があるのだとしても別に言及する必要もない。

 

一般に、「これはあれそれのゲームに似ている」というのは外野が勝手に騒いでることであり、製作者側が明言することではない。

だが、逆にオマージュ元を明らかにすることで、熱烈な賛意を表明することもできる。UNDERTALEがそれだ。奇妙でおもしろい世界、どこか抜けてるが憎めないキャラクター、「ゴミ箱から見つかるハンバーガー」といったジョーク*5はそれ自体が楽しいゲーム体験であり、また製作者のMOTHERシリーズへの愛を伝える手段でもあるのが特徴である。

しかし、OMORIの場合、それはより直接的な私たちの体験への言及を伴う。それは2000年代の文化を通じて、ゲームボーイを持って遊び、友達と秘密基地を作って遊んだ我々の記憶に直接訴えかける。たまごっちを持ち寄ったあの日、小遣いをためてCDを買ったときのこと、Windows XPでひたすら暇をつぶしたゲーム達。それらがすべて、一つの世界観として収まっていながら、同時に私たちの記憶そのものに訴えかけるギミックとして機能する。

Faraway Townのギャングの一人、MIKHAEL(The Maverick)の話をしよう。彼は明らかに中二病患者で、珍妙な恰好、とにかく自分を強く見せようとする姿勢などで笑いを誘いつつ、我々の黒歴史を刺激するキャラクターである。それだけですでに確固とした印象を我々に与えてくれるが、かれがこういう言う時、プレイしている我々(の多く)はあることに気づく。

No... It can't be over for me...
People of Earth...
LEND ME YOUR STRENGTH!!
(いや…このまま終わるわけにはいかねえ…
地球のみんな…
俺に力を分けてくれ!)

 これは明らかにアニメ「ドラゴンボールZ」の有名なセリフへのオマージュであり、Fandom Wikiでも言及されている*6。そして直後に知る事実「MIKHAELは実は金髪のかつらを被っている」ということが、我々を笑わせるのと共に、とりあえず流行っているという理由でかめはめ波をことあるごとに繰り出していた時代を思い起こさせるのだ。

若いプレイヤーでドラゴンボール直撃時代でない人であっても、彼の際立った個性のため十分に印象に残るキャラクターになるだろうし、「金髪が超サイヤ人の特徴である」と知っている世代なら、よりMARVERICKの一杯一杯な背伸びに親近感を抱くだろう。

ここではMIKHAELを取り上げたが、もちろん彼は一例に過ぎない。OMORIの一つ一つのイベントが、再度プレイするごとに、オマージュ元の作品について知るごとに、違った見方を提供してくれるようにできている。製作者が影響を受けた作品について「むしろ比較されることを光栄に思う」と述べているのはそうした読みの推奨とも受け取れる。

すでに述べた通り、あらゆる作品は既存の作品の影響を受ける。その影響をどこまで明確にするのかは、ひとえにその作品の戦略性による。

「OMORI」の全体的な戦略は明確である…「求めよ、さらば与えられん」。あるいは「何度も話しかけるのが大事」(MOTHER2のセリフより)。メインストーリーだけでこんなに多くのテキストを読ませるのに、さらにサブクエストを進めるほど彼らの心情を理解できるようになる(THREE DAYS LEFTの夕方、KELとMIKHAELがかけっこをするシーンを見ただろうか?)多くのパロディ、オマージュについても同じで、それらは分かりやすく提示されている。あとはプレイヤーがそれに気づくかどうかであり、それこそがゲームプレイを「唯一無二」のものにする。

 

……だからこのブログを書くことには抵抗がある。私が見つけたネタを共有するということは、その「一つしかないゲーム体験」を変えてしまうであろうからだ。「実はこのキャラにはこんな元ネタがあって、だからこういうう考察ができる」と言ってしまうのは、他の豊かな「読み」の可能性を否定してしまうことでもある。

よって、私はここに書かれている考察は基本的に「私が考えた脳内設定」であることはもう一度宣言しておく。(そもそも、「作者の人そこまで考えてないと思うよ」という状態は常に発生しうる)*7作品の「読み」は開かれているべきである。だが、自分の「読み」を公開すること、特に自分の知識を総動員して、文脈の中に取り込んでいくことは、オタクにとってある意味最高の楽しみである。

 

ぜひこれを読んだ方にもこの「あれこれ口を出す」ことの楽しさを知ってほしい。くれぐれも偉そうな知ったかぶりにはならないこと、これは注意しなければならない(自戒を込めて)。

 

次の記事の予定:

メインストーリーの元ネタとなった作品について

 

後記(小ネタ)

HEADSPACEにて、MARIにクエストの進行状況を確認するときに言われる"All cost is your love!"は聖剣伝説Legend of MANAが元ネタらしい(「お代はラヴで結構」)

プレイしたことがないので情報を求む

*1:

This is such great news as there is an undeniable amount of Japanese influence evident in this game and the entire team. We are also being favorably compared to Itoi's MOTHER series and Kikiyama's YUME NIKKI, which is beyond fine by us!! In fact, it is an honor.

https://www.kickstarter.com/projects/omocat/omori/posts/821864 より。 

*2:

www.gamespark.jp

*3:Last Resortでスロットマシーンがプレイできると知ったとき、私は製作者が何を思って作品の舞台を1990年代~2000年代初頭に設定したのか分かった気がした。

*4:ポケモンもさっき調べると関連性を認めた公式の文章は見つけられなかった。

*5:あるいは、トイレから見つかるラーメン

*6: THE MAVERICK | OMORI Wiki | Fandom 。ちなみにこのサイトに書く考察の内容のほとんどはこことRedditの投稿から知った要素が大半を占めているので、全て私の独自考察というわけではない。

*7:英語圏のOMORIファンコミュニティでも、"Every Kel meme is Canon"(どんなケルのミームも公式設定だ)と言われている。ケルだけでなく、このゲームに登場するあらゆるキャラクターが、「こんなこともするだろう」と思わせる広がりを持っている。