OMORI考察まとめ

みんなOMORIやろうぜ

OMORIの音楽 ~ライトモティーフ、好きですか?~

※このブログのすべての投稿には、ゲーム「OMORI」についての重大なネタバレが含まれます

 

ライトモティーフ(ライトモチーフ、独: Leitmotiv)とは、オペラや交響詩などの楽曲中において特定の人物や状況などと結びつけられ、繰り返し使われる短い主題や動機を指す。単純な繰り返しではなく、和声変化や対旋律として加えられるなど変奏・展開されることによって、登場人物の行為や感情、状況の変化などを端的に、あるいは象徴的に示唆するとともに、楽曲に音楽的な統一をもたらしている。示導動機(しどうどうき)とも。  

──Wikipediaより

 

ゲーム音楽を説明する際、最も頻繁に聞かれる言葉の一つがライトモティーフだ。非常に簡単に言えば、「各登場人物・場所・状況に割り当てられたメロディー」である。

OMORIを例に挙げよう。OMORIがBERLYたちと遊ぶことになるPLAYGROUNDで流れる曲が、次の「Let's Get Together Now!」だ。

一方、現実世界でSUNNYが訪れるFARAWAY PARKのテーマ曲は次の「Where We Used To Play」だ。

二つを聴き比べてもらうとわかるが、どちらも同じメロディーを使っている。ここから、HEADSPACEのPLAYGROUNDとFARAWAY PARKに密接なつながりがあることが示唆されるのだ。 これがライトモティーフの基本である。「以前、この曲をどこかで聴いたな……」とプレイヤーに想起させることで、直接言葉には出さず関係性を暗示する技法だ。

似た例として、次の2曲がある。

Pyrefly Forestの出口でピクニックをすると、MARIから「この辺りの地下には広大な図書館があるらしい」という噂を聞くことができる。その後、OMORIはSWEETHEART'S CASTLEに空いた巨大な穴に飛び込み、実際に図書館に到達する。「Pyrefly Forest - Cat's Cradle」と「Lost Library」の2曲が同じメロディーを有していることから、この2か所が実質的に同じ場所にある(地上と地下に分かれている)ことが示唆される。

 

 ライトモティーフについて勘違いしてはいけないのは、これがただの「テーマ曲」ではないということだ。同じキャラクターに同じメロディーが割り当てられるだけではいけない。そのメロディーが「感情、状況に応じてアレンジされ、時には組み合わされる」必要がある。

OMORIにおいて象徴的な楽器といえば、SUNNYのヴァイオリンとMARIのピアノだ。ヴァイオリンはエピローグまで「使われない」ことでSUNNYの抑圧した記憶を表し*1、ピアノはMARIと「真実」を示唆する重要な役割を持っている。「Where We Used To Play」と「Lost Library」では以前聴かれた曲をアコースティック(ピアノ)ヴァージョンにアレンジすることで、よりリアルな記憶がここに隠されていることを示唆する。

 

CAPT. SPACEBOY関連のテーマは2つある。一つが「Three Bar Logos」で聴かれる刺繍音

もう一つがSPACIAL MIXTAPEに入った「Space Boyfriend's Tape - I Want Nothing More」である*2

これが少し音型を変えて「Stardust Diving」にアレンジされ、

さらに直前にSPACE EX-BOYFRIENDが流す「Trouble Never/Alaways」のコード進行をもとにこれらのテーマが重なってできたのが、「You Were Wrong. Go Back.」である。

各ライトモティーフをバラバラに聴かせ、最後に盛り上がったところで全てを総合して一曲に仕立てる。このように綿密に組み立てられることで、OTHERWORLDでの冒険そのものが音楽的により一体感あるものと変化する。

 

SWEETHEART関連では、実はライトモティーフという要素はそこまで前面には出てきていない。彼女を表すのはやはり「World's End Valentine」でフィーチャーされているチェンバロ(ハープシーコード)だ。

個人的にこの楽器の使い方は本当に素晴らしいと思う。「いかにもクラシックな音/王侯貴族の上品さ」を表すためしばしば使われるチェンバロだが、歴史的にみると当時存在した他の鍵盤楽器と比べて華美で誇示的な一面があるとされてきた。*3チェンバロを好んで演奏したヘンデルスカルラッティといった作曲者も、聴衆に見せつけるようなギラギラした演奏を行ったという。自信過剰でOMORIから「ムカつく顔(obnoxious-looking person)」とまで言われるSWEETHEARTを表すテーマとしてはぴったりだ。

 

チェンバロはSPACE EX-BOYFRIENDの「Trouble NEVER/ALWAYS」でも登場して、彼女がトラブルの元となっていることを示唆しているし、

ROSAとSWEETHEARTが登場するとき使われる曲、「A Rose By Any Other Name...」でも中心となっている*4

ちなみに、SWEETHEARTのテーマとはいえないが、「A Rose By Any Other Name...」の後半に登場するメロディーが、PERFECTHEARTの戦闘曲「Tee-hee Time」でも一瞬登場する。

彼女のconfidentな一面を表すライトモティーフといえるだろうか。ハードコアな曲調が、ゲーム内でも随一に厳しい戦闘を象徴している。

 

ここまでOMORIのライトモティーフを紹介してきたが、まだまだたくさんの関連性がOMORI のサウンドトラックには埋め込まれている。ぜひ探してみてほしい。*5

 

最も、ライトモティーフについては決してOMORIだけの特徴と言えるわけでない。例えばFINAL FANTASYシリーズでは伝統的にライトモティーフを徹底的に利用することでBGMと物語の融合を図るという手法がとられてきている。また、UNDERTALEではほぼ全ての曲が何らかのライトモティーフで他の曲とつながりを保っており、より緊密な世界観の統一がなされている。

OMORIでは複数の作曲家が参加している関係上、曲間に常に繋がりがあるとは言えない場所もある。例えば、Pyrefly Forestの戦闘曲「Forest Frenzy」には、Vast Forestのテーマ「Trees...」が組み込まれている。

 

「どうして違うエリアに同じライトモティーフが使われているのか?」と考えたくなるが、実は2018年のデモ版では「Forest Frenzy」がVast Forestの戦闘曲だった。おそらくデモ版以降にBo En氏の「Tussle Among Trees」が追加されたため、ライトモティーフ的なつながりはなくなったのだと推察される*6

しかし、たとえライトモティーフが徹底されていないとしても、それぞれの曲が単独でも非常に魅力的なのは間違いない。そのうえで曲の間に有機的な関連性があって、ゲーム体験の密度を高めているのだ。

 

後記:

「ライトモティーフ」という言葉はもともとクラシックの作曲家、リヒャルト・ワーグナーのオペラを分析するために使われた言葉だった。

ja.wikipedia.org

ちなみに、ゲーム中、唯一含まれている既存の曲のアレンジがワーグナーの「ローエングリン」より「結婚行進曲」である。

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ワーグナー作曲「婚礼の合唱」を練習するSPROUT MOLEたち。

この「ローエングリン」のあらすじが興味深い。次のようなものだ。

 ブラバント国の王女エルザは弟殺しの疑惑をかけられるが、「白鳥の騎士」と名乗る者に助けられる。エルザと騎士は結婚式を挙げ、そのとき「私の素性を尋ねてはならない」という条件を出される。しかしエルザは黒幕である魔女に唆され禁を破ってしまい、二人の結婚生活は一日も経たずに終わってしまう。騎士ローエングリンは行方不明だった弟を見つけ出した後、素性を明かして国を去る。

すなわち、「結婚行進曲」が使われた時点でSWEETHEARTとCAPT. SPACEBOYの結婚生活が早々に破綻することはすでに暗示されていたのだ。それだけでなく、二人の結婚生活が破綻した理由も想像できる……CAPT. SPACEBOYはSWEETHEARTに「禁じられた問い」すなわち「あなたはどこから来たのか(どうしてその立場を手に入れたのか)」を尋ねたのだ。KEEPER OF THE CASTLEとの契約を何が何でも隠しておきたかったSWEETHEARTは、理由を告げずにSPACE HUSBANDと離婚したのであろう。

 

R.I.P. SPACE HUSBAND.

 

次回:OMORI/SUNNY君の誕生日に合わせた記事を書きたい

*1:例外はSWEETHEART'S CASTLEのBGM

*2:もともとこのメロディは「OMORI」の作曲者の一人であるJami Lynne氏が制作したアルバム「Bug Spray (Never give up)」の一曲に由来しているそうだ。

*3:たとえばJ.S.バッハやその息子のC.P.E.バッハチェンバロよりも、より「親密で繊細な表現が可能な」クラヴィコードという楽器のほうを好んだ。

*4:ちなみにこの曲名は、シェイクスピア作「ロミオとジュリエット」の一節、「薔薇の花は違う名前であっても、同じく良い香りがする(A rose by any other name would smell as sweet)」からの引用となっている。

*5:その中でも、個人的に非常に気になるのが「Not-So-Empty-House」に使われているWHITESPACEの音楽である。

そもそもこのGHOST PARTYの面、HEADSPACE中で数少ないMARIが存在しないマップ(もう一つはBREAVEN)であり、替わりにMARIがそれまでピクニックに持ち込んできた数々の「ご馳走」がおいてある、さらにBGMがMARIの好んだ「ワルツ」になっているなど、非常に気になる要素が多く含まれている。私自身でも未だ考察というまでまとまった考えはなく、是非調べてみてほしいところだ。

*6:ちなみに、Bo En氏がOMORIを実況したときのアーカイヴによると、この曲名を決めたのはBo En氏ではなく制作陣側らしい。