OMORI考察まとめ

みんなOMORIやろうぜ 英語版の内容に基づいています

KEL その2 KELの成長

※このブログのすべての投稿にはゲーム「OMORI」についての重大なネタバレが含まれます

 

KEL その1 KELとHERO/PLUTOの続きだが、一応独立して読めるはず。

KELに対する私たちのイメージはほぼ「いつもHAPPYな人間」という一点に集約される。彼はどんなときでも笑顔を絶やすことはなく、ストーリーにギャグパートを持ち込むキャラクターであり、そのことがSUNNY達(とプレーヤー)の精神的な支柱となっている。

だがそんなKELの変わらない明るさは、時に責められるべき欠点のようにもとらえられる。AUBREYやHEROがMARIの死以降大きなトラウマを背負うようになったのに対し、KELはまるで何事もなかったかのようにふるまう。その態度がHEROとの喧嘩をエスカレートさせ、THREE DAYS LEFTの教会での戦闘の原因となった。

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FARAWAY CEMETERYにて。

だが、KELは本当に昔から何一つ変わっていないのだろうか。そんなことはない、というのが今回の趣旨である。

 

分析1 逃げ出すKEL

KELには悪い癖があり、それが「自分には都合が悪いことをすぐ忘れる」ということだ、というのを前回述べた。初めてNEIGHBOR'S ROOMに入ったときからそうだが、彼は小さいころAUBREYのぬいぐるみを隠したり言い争いをしたりと、よくちょっかいをかけていたようだ。しかし、作中でそれを指摘されたときは、「そんなことは覚えていない」と返している。

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PROLOGUE
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ONE DAY LEFT

先ほどのFARAWAY CEMETERYの会話でも、「(HEROから言われたことの)多くについては思い出さないようにしたんだと思う(I think I blocked out a lot of it) 」という言葉が出てくる。

また、HEROへのプレゼントを買うためにSUNNYからお金を借りておきながら、(プレイヤーが彼の戸棚から20ドルを盗み返さない限り)最後まで返さない、というのも彼の悪癖である。(しかも、ONE DAY LEFTでAUBREYに対し似たようなことをやっているのを見ると常習犯の可能性が高い。)恐らくこれもわざとではないのだろうが、決して褒められた行為ではない。*1

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"WELCOME TO MONEY SPACE"。20ドルを取り返そう

KELがいつも笑顔なのは、彼が難しいことや辛いことをすぐに忘れ、HAPPYなことしか考えていないからだ。これは前回触れた「困難に直面するとそこから逃げ出す」という側面にもつながってくる。

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ただ、この行動が彼の「間違ったことをすることへの恐れ」から来ていたことは強調しておきたい。事件の後彼はHEROやAUBREYのようにショックを受ける前に逃げ出し、距離を置くようになったが、「MARIのお墓参りには定期的に行っていた」という証言から、やはり彼もMARIの死を悲しんでいたことは察せられる。
そしてAUBREYへの言葉から、彼が以前の友人たちのことを忘れていたわけではなく、ずっと友達だと思っていたこと、いつか再び元のように集まることができるのを望んでいたことが分かる。

SUNNYが引っ越しすると聞いたとき、彼はなんとかもう一度SUNNYと会えないかと思いドアを叩き続けた。「実際に外に出てくるとは思っていなかった」にも関わらず。

 

分析2 KELは陽キャか?

引きこもりになる前から、SUNNYはいかにもインドア派で、ゲームが得意、あまり表情を変えず一人で本を読んでいることが多いなど、いわゆる「陰キャ」っぽい性格だったことが分かる。それに比べ、KELは運動が得意で、色んな街の人に気軽に話しかけ、いつも笑顔……と明らかに陽キャっぽい感じはする。

ただ、KELがSUNNY達以外の人とどんな関係でいるのかは、実はよくわからないことが多い。KIMらHOOLIGANSから彼は"Nerd" (オタク、根暗野郎)と呼ばれているのだが、その由来については明確ではない*2

 

4年前のKELについて私たちは直接知ることはできず、HEADSPACEでの描写から推察するしかない。しかし、中にはこんなセリフが入っていたりする。

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PROLOGUEにて。人の名前を覚えるのが苦手なKEL。
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「疲れそうだなあ…俺全く世間話できないんだ」と言うKEL。

特にLAST RESORTでの会話については注目に値する。私たちは現在のKELが「誰とでもすぐ仲良くなれる」ような性格だと知っているが、実はかつてはそうではなかったのではないか?という可能性があるからだ。

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これと関連して、HEADSPACEのKELは色んなちょっかいをかける性格に見えて、実はかなりドライだ。PROLOGUEでCAPT. SPACEBOYがベッドで寝ているとき、彼は(あれだけ宇宙海賊になりたいと言っていたにも関わらず)「さっさと行こう」と言い出す。また、SWEETHEARTのソロウェディングに乱入するAUBREYに対しては、「何してるんだ、またDUNGEONに連れてかれるぞ」と冷静に指摘している。

無論これらはHEADSPACEの中のKELの描写であり、実際のKELが小さいころどうだったかまではわからない。しかしこの見方に立つと、彼が「練習すれば会話はできるようになるよ」とSUNNYに言ったシーンも少しとらえ方が変わってくる。実際に彼は(今までの親友たちと疎遠になった期間に)色んな人に話しかける訓練をしていたのかもしれない。

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分析3 KELと正義 (あるいはAUBREY)

ここまではHEADSPACE、あるいは4年前のKELについて詳しく見てきたが、現在の彼はどんなふうに変わったのか。

TWO DAYS LEFTの午後にWRINKLY FOREHEADの家に行くと、今日は息子(HEADPHONE KID, JESSE)の誕生日だ、という話が聞ける。その後奥の部屋を何度もノックするとイベントが起こり、「父親の買ってくるプレゼントは時代遅れだからいらない」というJESSEに対し、真剣に怒るKELを見ることができる。

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折れてJESSEが父親の方へ向かった後、HEROはKELのことをほめる。「お前、本当に大人になったなあ」と。だが、KELは「子供の方が楽しいじゃん」と微妙に嚙み合わない。

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KELの反応はさておき、このイベントは「KELの成長」を描くために用意されていると言ってもよいだろう。HEROが褒めたのは、KELがある種の責任を進んで負うようになったからだ(本人は気づいていないが)。SUNNYの場合と違い、JESSEやWRINKLY FOREHEADとは長い間の付き合いがあったわけではない。だが、たとえ自分自身と関係がない他人であってもその気持ちを汲み取り、間違ったことに対しては厳しく指摘することができる。

ある意味で、現在のKELは「正義」を大事にする人間になったともいえるだろう。

 

彼の「正義」はHOOLIGAN達との会話でも何度か表れている。最初にBASILを助けに入ったとき、彼は「誰が助けを求めているか」を気にすることなく騒動の方に向かっていた。誰であっても人がいじめられるのは許さない、という彼の優しさの表れだ。

しかし、BASILを巡る騒動では、彼の正義はあまり良い方向に作用するとは言えなかった。AUBREYがCHURCHで怒りを露わにするのは、KELが一度は自分たちを(ある意味)見捨てておきながら、BASILを守るために事情をよく知らないまま首を突っ込んできたからだった。

KELの正義感は自分自身に対してはあまり向いておらず、そこからあの投げやりな謝罪(と破局)に結び付いた。

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KIMの説明にも関わらず、KELはお構いなしに突っ込んでいく

ところで、BASILによれば"Someone who is honest, with strong moral values... Someone who stands by their convictions" (誠実で、強い倫理感があり、信念を貫くことができる人)は、グラジオラスの花になぞらえられたAUBREYだった。しかし、現在の彼らについてはどうだろうか?

現実世界で最も倫理観が強いといえるのは、実はKELかもしれない。彼は4年の間に、困難があろうともHOOLIGANSと戦い、BASILの助けになろうと頑張る性格に変わった。

一方サボテンを表す言葉…"Sturdy and Resilient"が当てはまるのはKELだけではない。MARIの死後、一番過酷な環境にあったのはAUBREYだ。父親は離婚して出ていき、母親は生活を放棄し、親しかった友人たちは皆「自分が必要だったときに側にいてくれなかった」。そんな環境にも関わらず、彼女は(KELと同じように)新しい友人をつくり、たとえ新しいスクーターが手に入らなくても全く気にすることなく、自分の居場所を作った。「サボテンはどんな環境でも生きていける」とBASILは言ったが、その忍耐力の強さが当てはまるのは、AUBREYの方かもしれない。

 

KELとAUBREYは常に喧嘩をしているが、実は互いに相手の行動を真似ていることも多い。(例えば"Please, Please, Please!"というセリフを、2人は別の場所でそれぞれ言っている。)無意識的であれ意識的であれ、彼らがMARIの死という大きな危機に直面した時、それぞれ相手の行動を真似して対処するようになった、と考えてみると、なかなか面白い関係だなと思う。HEROが「二人のことを少し羨ましく思うよ」と言うのも分かる気がする。

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AUBREYが言う通り、4年は人が変わるには十分な期間だ。一見いつも元気に見えるKELも、彼なりに成長していたのだといえるだろう。

MINCY

先ほどちらっと触れたが、HEADSPACEのKELは人の名前を覚えるのが苦手だ。それに対し、現実世界の彼はよく人の名前を覚えていて、率先して紹介してくれる。(仲が悪いはずのHOOLIGANSについても全員の名前を覚えている)

特に気になるのはMINCYとの会話だ。THREE DAYS LEFTの午後、彼は果物売り場にいるMINCYに対し"Hey, Stranger!"と声を掛けている。それに対し、彼女は答える「やあ、KELとSUNNY…かな?ごめん、人の名前を覚えるのは苦手で…」

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この後はなんということもない会話が続くが、立ち去るときKELはMINCYの名前を出す。この会話の間、MINCY自身は名前を名乗っていない。

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これ、状況的に名前を覚えていないことに焦ったKELが、会話の間にMINCYの名前を頑張って思い出していたように見えるのだが、だとすると彼が人と話すために努力をしているという説の根拠になるよなあと考えてたところ。

 

HOBBEEZにて

TWO DAYS LEFTでHOBBEEZに入ると、KELは昔の思い出話を始める。SUNNYとKELは小さいころ、真夜中に家を抜け出してHOBBEEZに入り浸っていたという。

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ところが、THREE DAYS LEFTの真夜中、HOBBEEZに行くと"ENERGIC BOY"と"SKINNY BOY"がゲームをしているところが見られる。この2人はよく見ると幼いころのKELとSUNNYの風貌によく似ている。

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恐らくSUNNYの幻影であり、小さい頃の2人が遊んだ時の記憶なのだろう。

 

ここまでKELの色々な面について細かい点を拾ってきたが、結局のところ、私がここまで調べたくなったのも、彼が長所も欠点も含め、本当に魅力的なキャラクターだからだと思っている。

 

誕生日おめでとう、KEL!

 

追記:

あーいいなあー

KELにすね毛は必須

 

そういえば、FARAWAY TOWNは典型的な郊外の街並みだけど、ゲーセンはないんですよね

実は裏HOBBEEZ的な施設がどこかにあるのかもしれない

*1:これに対し、HEROや父親がプレイヤーに買い物を頼むとき、必要以上にお小遣いをくれる、というのはいかにも対照的である。気前がいいというべきか、それはそれで申し訳なく感じるというべきか。

*2:KELはゲーム好きかつ相当数のフィギュアをコレクションしているので、確かにオタクではある(特に1990年代基準で)。