OMORI考察まとめ

みんなOMORIやろうぜ

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※このゲームのすべての投稿にはゲーム「OMORI」についての重大なネタバレが含まれます

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「ここが家でないなら、どこが家なのか?」

最近気づいた、考察というほどではないメモ書き。

OMORIは端的に表すならば「ホラーひきこもりRPG」だ。プレイヤーは選択によって「外に出て引きこもりを克服する主人公」「引きこもり続けゲーム中一度も外に出ない主人公」を選択することができる。だから"home"という言葉が作中何度も現れること自体に驚きはない。

 

だが、同時に気になるのは、ゲーム中では「道に迷う」「家に帰れない」という言葉が何度も出てくることだ。SUNNYは自宅のベッドで夢を見ているのであり、普通に考えれば迷子どころか家を見失うはずもない。

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道に迷っているのはSUNNYだけではない。BASILもまた道に迷っていることがStrangerの話から分かる。確かにHEADSPACEの中のBASILは消失し、行方不明になっているが、現実のBASILについてはどうだろう。彼もある意味で「迷子」になっているのだとしたら……。

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そもそもの最初、

"Welcome to WHITE SPACE. You have been living here for as long as you can remember." という文章について考えてみよう。

文法的な解説には自信がないのだが、"have been living"という言い回しにはちょっと微妙なニュアンスがある。「長年住んでいる」状態を説明するときは現在形を使うのが基本だ。過去完了形を使うのは、「途中から引っ越したか何かで、今の場所に一時的に住んでいる」というシチュエーションを想起させる(らしい)。

「思い出せる限りずっと、ここに住み続けている」。気づけばここにいたのであって、定住の地ではない。WHITE SPACEは一種の緊急避難所である……そこに生活の匂いはない。BRANCH CORALの言葉によれば"a home without warmth"(ぬくもりに欠けた家)だ。


WHITE SPACEは恐らく家ではない。*1冒頭に載せたSTRANGERの台詞から察するに、HEADSPACEも家ではない。BLACK SPACEも当然家ではない。

 

では"home"とは現実世界におけるSUNNYの自宅のことを指すのだろうか。……そうともいえないだろう。自宅にいるSUNNYは襲い掛かってくるSOMETHINGの幻覚を払いのけながら、安心できないまま眠りにつかなければならない(SUNNYは一人で寝るのが嫌いだ)。ある意味、このゲームでは自宅の方が外よりも危険な場所である……MARIの死は暗い事実を投げかける。

 

ONE DAY LEFTの夜、BASILの家で目覚めたSUNNYがとれる行動はいくつかあるが、現実の家に帰る選択肢を取った場合は「間違い」であり、"Another Ending"に到達してしまう。笑顔のBASILに「君は帰り道を見つけたんだね」と言われるのは、BASILの家に留まり続け、彼と対決した後である。

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そして、どのエンディングを取るにしても、SUNNYは家を出ていく。やはり現実の住居と、「家に帰ること」は別の意味だと考えられる。

 

家とはなんなのか。KEEPER OF THE CASTLEは次のように説明する。

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SWEETHEARTにとって、この城は「家」だ。ORANGE OASIS出身の彼女には里帰りをする場所(老ドーナツ達の住居)があり、PROLOGUEでもお忍びで電車に乗ろうとしている。ある意味ドーナツ達の方が等身大の彼女を捉えられているともいえるだろう。だが、KEEPER OF THE CASTLEが指摘するように、彼女が最も深い欲望を実現できるのは城の方である。

SWEETHEARTがHUMPHREYに飲み込まれた後、OMORIがKEEPER OF THE CASTLEに話しかけ契約を結ぶと、城は完全に消失してしまう。そして現れるのはあの部屋……TRUE ROUTEで訪れることになる、大きな肘掛け椅子と、「電球」をはめ込むことができるライトスタンドが備え付けられた部屋だ。

「家」が真の欲望を実現する場所だと考えるならば、SUNNYが本当にやりたいことはここにあるのだろう。

 

KEEPER OF THE CASTLEは個人の最も深い願望を叶える……が、SWEETHEARTが満足せず完璧な伴侶を求めて自滅したように、一番重要な願いは叶えてくれないようだ。その欲望の煽り方は、メフィストフェレスのような悪魔の契約を連想させる。

SUNNYにとって一番やりたいこと、真の意味で家に帰ることは、ひきこもりルートでは叶えることはできない。

 

 

"lost"(迷子)という言葉についてはどうだろうか。本作を代表する敵がLOST SPROUT MOLEであることからも、「迷子」という言葉の含意について考察できる*2

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特に「迷う」ことについて示唆する発言をするのが、LOST FORESTで出会うDADDY LONGLEGだろう。

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OMORIたちはLOST FORESTの迷路に閉じ込められて迷っているが、DADDY LONGLEGSもOMORIではなく"DREAMER"、つまりSUNNYに対して話しかけている人物の一人だ。彼が言う「迷う」とは、SUNNYが夢を見ること、HEADSPACEを(OMORIという殻を被って)旅することだ。

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DADDY LONGLEGSは言う "I've never been one for wants. I'm more of a "need" kind of person."(「私は望まれるような者ではない。どちらかと言えば私は「必要とされる」ような者だ」)。彼はSUNNYを正しい道へと導く存在であり、それは手にしたランタンから示唆される。

Yet, the end of this world may be an inevitability. The DREAMER is the only one with the ability that can truly set this world free.

「しかし、この世界の終末は恐らく避けられない。唯一「夢見る者」だけが、この世界を自由にすることができる。


SUNNYの取るべき正しい道は、HEADSPACEを抜け出し家に帰ること、真実を認め、それを告白することだ。

 

さて、「家に帰る」ことにも実は有名な逸話がある。新約聖書、ルカの福音書にあらわれる「放蕩息子のたとえ」だ。

ある人に二人の息子がいた。弟の方が親が健在なうちに、財産の分け前を請求した。そして、父は要求通りに与えた。

そして、生前分与を受けた息子は遠い国に旅立ち、そこで放蕩に身を持ちくずして財産を使い果した。大飢饉が起きて、その放蕩息子はユダヤ人が汚れているとしている豚の世話の仕事をして生計を立てる。豚のえささえも食べたいと思うくらいに飢えに苦しんだ。

父のところには食物のあり余っている雇人が大ぜいいるのに、わたしはここで飢えて死のうとしている。彼は我に帰った。帰るべきところは父のところだと思い立ち帰途に着く。彼は父に向かって言おうと心に決めていた。「お父さん、わたしは天に対しても、またお父さんに対しても罪を犯しました。もう息子と呼ばれる資格はありません。雇い人のひとりにしてください。」と。ところが、父は帰ってきた息子を見ると、走りよってだきよせる。息子の悔い改めに先行して父の赦しがあった。

父親は、帰ってきた息子に一番良い服を着せ、足に履物を履かせ、盛大な祝宴を開いた。それを見た兄は父親に不満をぶつけ、放蕩のかぎりを尽くして財産を無駄にした弟を軽蔑する。しかし、父親は兄をたしなめて言った。「子よ、お前はいつもわたしと一緒にいる。わたしのものは全部お前のものだ。だが、お前のあの弟は死んでいたのに生き返った。いなくなっていたのに見つかったのだ。祝宴を開いて楽しみ喜ぶのは当たり前ではないか。」(口語訳新約聖書 ルカ 15:11-32)-Wikipedia

この話は、「OMORIとキリスト教のモチーフ」でも触れた、贖罪(redemption)の重要性を説く内容となっている。よってこの話を踏まえるならば、OMORIにおける「家に帰る」とは「罪を認める」ことだと考えられるだろう。……のだが、単にそういった対応関係に回収してしまうと失われてしまう細部がいくつもある。よくこのブログでは象徴に着目しているが、そればかりに気を取られて、作中での記述を見過ごしてはいけないよなとこの頃思うようになった。

実際、OMORIにおける「帰宅」の扱われ方はかなり逆説的だ。SUNNYの「帰宅」はそのまま新しい生活への再出発でもある。また聖書のたとえとは異なり、SUNNYを迎えてくれる存在は姉のMARIだ。両親は顔が塗りつぶされ、実質いないもののように扱われていたが、帰り着いた家ではSUNNYの暖かい思い出によって間接的に姿を見せる。

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「あなたが覚えている限り、私はここにいるから…」

「家に帰ること」は何かの終わりを予感させる。TRUE ENDINGのOMORIも最後にはSUNNYの元へと帰ってくる。そして迷子の状態から脱出して初めて、SUNNYは長い夜から目覚め、新天地へと旅立つことができるのだ。

*1:逆に言えば、OMORIは「家」を持たない存在であり、それは彼の過去の空白性によく表れている。誰もがOMORIがどんな子かは知っているが、OMORIの過去については触れもしない。彼のJOURNALはHEADSPACEの冒険にも関わらず、恐ろしく単調だ。

*2:SPROUT MOLEが言うように、迷える者は「敵対的で、注意することなく攻撃する。」SUNNYとBASILが極限のストレス状態で攻撃しあうのも、彼らが「正しい道」を見つけることができず迷っているからだと考えられる。