OMORI考察まとめ

みんなOMORIやろうぜ 英語版の内容に基づいています

結局OMORIって何者なのさ

※ゲームにおける重大なネタバレあり

 

…。

 

……。

 

これを書くのは少し抵抗がある。

 

「OMORI考察まとめ」ブログを名乗っておいてなんだが、このブログではOMORIの登場人物とかに直接触れることはなく、元ネタや小ネタの紹介にとどまってきた。

 

それはRPGが本質的に「プレイヤーとゲームの一期一会の物語」であるからだ。OMORIが私にとってどうであるのかを、さも誰にとっても同じであるかのように語るのはよくない。

 

しかし、昨日発表された公式漫画を見て、自分がそれなりにゲームから読み取ってきた人物像とずれが生じた。そこで、「どこまでは作品中で語られているか」「どこからは想像の範囲内なのか」をもう一度まとめておきたい。

 

まず、OMORIは(ドリアン・グレイとの関連でまとめたように)「SUNNYの邪悪な魂が分離されたもの」である。これについてはいくつか根拠がある。

 

例えば、DEEPER WELLの最奥、HUMPHREYを倒すと開く水道において、「???」は次のように言う。

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This form, though it has not shown its true self, is evil.

You will not see that unless you fight it.

訳)その形態は、まだ真の本性を表していないとはいえ、邪悪な存在だ。

お前は戦わない限り、その姿を見ることはない。

 

 この「???」、OMORIに対して話しかけているようで、実はSUNNY=「DREAMER」に対して話しかけている。

そのため、2周目以降だと「This form」が「SUNNYがHEADSPACEで纏っているOMORIという形」を指していると推察できるのだ。

OMORIの本性が見られるのは、TRUE ROUTEでOMORIと戦うときだけである。

 

あるいは、BLACKSPACEにいるSTRANGERの台詞

Why must you take that cursed form? It is indeed strong and can protect you... but tf you rely on it too often...what you will sacrifice can never be reclaimed.

訳)なぜ、その忌まわしい形態をとる?確かに強く、お前を守ることができるだろうが…それに頼りすぎてしまったら…お前が犠牲にしたものは決して取り戻せないだろう。

 これも「OMORIのことを忌まわしいと呼んでいる」という点でDEEPER WELLの声と共通しているし、「OMORIがSUNNYの『お守り』である」という点からも裏付けられる。

 

 

OMORIの名前は確かにピアノからとられているが、彼の性質はピアノのそれとはあまり一致しない(「楽器の王様」とまで言われ、一人であらゆる音楽を演奏できる(=自己完結している)点ぐらいか?)

むしろOMORIを象徴するのは「ナイフ」だ。

 

実は現実世界でSUNNYがSOMETHINGと闘う際、必ず前にナイフを拾う描写がある。

特にSOMETHING IN THE WATERと戦うときは、MARIの前に落ちたナイフを拾うことでSOMETHINGが現れ戦闘が始まる、という導入になっている。「恐怖心を抱くからこそ、恐怖の対象が現れる」とも取れるし、「MARIについていく=死後の世界へ行くのをやめるからこそ、生きようとして恐怖に抗うことができる」とも読み取れる。

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(このナイフを拾う描写は、HikikomoriルートであらかじめSTEAK KNIFEを装備していると発生しない)

ナイフはSUNNYの暴力性の象徴、特に自衛本能を表しているように思われる。うっかりFARAWAY TOWNでもナイフを持ち歩いてしまうのも、「いつSOMETHINGに襲われるのか分からない」という怯えから来るものだろう。唯一SUNNYがナイフなしで挑むのが、ONE DAY LEFTの夜、黒い電球を割って遭遇するMARIのSOMETHINGである。*1

 

そんなナイフを常に持ち歩き、HEADSPACE/BLACKSPACEを旅するのがOMORIだ。

OMORIの持ち物であるナイフは、回が進むごとに「SHINY KNIFE」→「KNIFE」→「DULL KNIFE」と変化していく。ここで「KNIFE」の説明を見ると、

" pretty sharp knife. It's been used a few times."

(そこそこ切れるナイフ。何度か使われた)

という説明文がある。考えてほしいのだが、この説明文を見ることになるTHREE DAYS LEFTの夜(SWEETHEART戦の日)までに、OMORIは数百回はナイフを使っているはずなのだ。しかし、HEADSPACEにいるものを何度STABしてもナイフが汚れることはない。これは、ナイフが本当に傷つけられるのはOMORIだけであること、ナイフについた汚れ(おそらく血)がOMORI自身の血であることを意味している。

 

……興味深いことに、ナイフの説明として「汚れている」という言葉はあっても、「赤い」という言葉はない。OMORIルートにおいて手に入る「RED KNIFE」の説明はこうだ。

"A shiny new knife. You can see something in the blade. "

(きれいな真新しいナイフ。刃の中に「何か」が見える)

鏡に映った自分の顔を「何か」と呼ぶOMORIも怖いが、ここからREDがまた別の象徴であることに気づく。RED HAND、RED SPACEが示唆する通り、REDは「OMORIの真の姿/SUNNYの罪」を表している。

 

さて、ここまで前提となる情報はそろった。ここから私が導き出した結論がこうだ。

 

OMORIとは「SUNNYが生きようとする意志」そのものであり、WHITESPACEの擬人化である。

BRANCH CORAL:

To be in WHITE SPACE is to be nothing.

WHITE SPACE is emptiness, a home without warmth.

A place to survive, but not to live.

Even still, your conscience cannot be erased. It will always find a way in.

Even in WHITE SPACE, it will take the form... and if one wills it, something will be formed to subdue it.

A hanging black light bulb... the repression of an idea. ...

Yes. Perhaps it is time to admit that you are human, DREAMER.

意訳)

ホワイトスペースにいることは、「何者でもない者」になることだ。

ホワイトスペースは空っぽで、暖かさに欠けた家だ。

生存するための場所であり、「生きる」ための場所ではない。

それでも、お前の良心は消えることはない。常に入り込む方法を見つけるだろう。

ホワイトスペースでも、それは「その形」をとる…しかし望むならば、それを抑制するための「何か」が生まれる。

吊り下げられた黒い電球…ある考えの抑圧…

そうだ。お前は人間であることを認めなければならない。夢見る者よ。

 これってつまり、OMORIは「人間ではない」ことを意味しているのではないか?

決して死ぬことのない、モノクロームの場所/者。それがWHITE SPACEであり、OMORIである。

 

SOMETHINGはSUNNYの罪の意識=良心が形をとったものだ。それは常に起きている間、SUNNYのことを見張っている。そして彼が恐怖心を抱くとき、決して傷つけられない存在として彼の前に立ちはだかる。SUNNYを責め立て、「逃がさないよ、ずっとここにいて(I'll trap you down here with me forever.)」と囁く。

どうにもならなくなったSUNNYが逃げ込んだのがWHITESPACEであり、そこで生まれたOMORIだった。彼は「生きること」に特化した人物である。*2おそらくWHITESPACEの中にいたSOMETHINGを、追放してBlack light bulbの中に閉じ込めたのだろう。強い存在だからこそ、SUNNYは彼に頼って、自分をほとんど消して彼に冒険してもらうことにした。

 

だが、SUNNYが「自分は生きていてはいけない人間なんだ」と思っていることは否定できない。だから、RED SPACEにいるOMORIのfinal form*3は罪の象徴である赤い手の玉座に座っている。生きようとすることそのものがSUNNYにとってはevil(邪悪)である。

ここでだが、私はOMORIを操作しているのはSUNNYであると考えたい。これはつまり、「SUNNY本人がHEADSPACEをRPG的なゲームの世界として構築した」ということである。HEADSPACEの住人が操作の説明などでメタ的な発言をするのも、「SUNNY自身がプレイヤーとして旅をしている」という仮定を設けると筋が通る。ひょっとしたら、SUNNY自身がEARTHBOUNDやポケモンといった、このゲームのリスペクト元である作品をプレイしたことがあったのかもしれない。(自分がプレイしたゲームを夢の中で再現するというのは、ゲーマーなら一度は身に覚えがあるだろう。)

BRANCH CORALを始めるとする何人かが、OMORIに対して「DREAMER」など、SUNNYに宛てた言葉を発するのもこれで理解できる。彼らはキャラクター=OMORIに対して話しかけているように見えて、画面の向こうから見ているプレイヤー=SUNNYに話しかけているのだ。*4

OMORIにはほとんど意志や感情はない(と思っていたが、Twitterの漫画を見るとSUNNYを大事に思う気持ちはあるようだ)。彼に与えられた役割は「生存すること」「屈しないこと(did not succumb)」だけである。必要があれば感情をいくらでも操作できるが、戦闘ではない=生存に直結しないのなら一切顔色を変えない、そういった存在である。

OMORIは自身を刺すが、彼は死なない。むしろ「OMORI=生きたいと思う気持ち」を消さなければならないのはSUNNYのほうである。

SUNNYがOMORIに自身を刺すよう命令するたびに、ナイフは錆びていく。「自殺を選ぶこと」への恐怖心は薄れていく。

 

さて、ここで各エンディングを考察してみよう。

Neutral Abandon Ending

SUNNYは全てを放棄してFARAWAY TOWNを出ていく。SUNNYの中にはまだOMORI(生きようとする意志)は残っている(完全に乗っ取られているかどうかはルートによる)。しかし、彼の良心=SOMETHINGだけは常に彼を追い回し、見つめている。生存=罪という意識が残る限り、逃れることはできない。

 

Neutral Knife Ending

SUNNYルートなら、「真実を知ったことでOMORIの力が弱くなった=生きようとする意志が弱まった」結果自殺に及んだと思われるし、OMORIルートなら「ほとんどOMORIに意識を奪われている中、最後の抵抗として自死を選んだ」ととれる(OMORIルートだとSUNNYが自身を刺す前に非常に躊躇いをみせているのがわかる)。

 

Bad Ending

OMORIはSUNNYに勝利するが、真実は明らかになった後で、このまま現実世界にはいられない。彼は身投げをし、永遠に(文学作品との関係その3を参照)夢の世界で生きることを決める。

 

Good Ending

SUNNYはOMORIを倒そうとする。しかし、OMORIとはSUNNYが生きようとする意志そのものである。よって何度倒そうが、OMORIの真の姿=醜悪な、呪われた自分自身の生き方が明らかになるばかりで、乗り越えることはできない。

……OMORIの呪いの言葉、「You're useless. less than useless... You're sick.」「People like you don't deserve to live.」などがどうして出てきたのか。この会話「誰から誰へ」の言葉か明言されていないので、一瞬SUNNY→OMORIへの言葉として解釈できるかなと思ったが、ないな……なぜならSUNNYはBASILの言う「君じゃなくて、君以外の『何か』がやったんだよね?」という言葉を否定して、「自分がやった」ということを認めるためにこの戦いに挑んでいるからだ。

どちらかというと、これらの言葉は「SUNNYに屈してほしくて、OMORIがSUNNYに投げかけている」言葉なんじゃないだろうか。OMORIはSUNNYのためならなんでもやる(というのが誕生日漫画で分かった)し、SUNNY自身を憎んでいるわけではない。ただ、OMORIは「生きることにすべての目的を置いている」存在であり、SUNNYには罪の告白をすることで傷ついてほしくないし、SUNNYがOMORIを攻撃するのをやめないのなら、SUNNYに死んでもらうしかない。PHASEが進むごとにOMORIの言葉が攻撃的になっていくのも、むしろOMORIの自身が消えることへの恐怖心の表れなのではないかという気がする。

OMORIがAFRAIDにならないのは、SUNNYが生き続ける限り、自分も死なないのを知っているからではないか。SUNNYルートでラスボスとして戦う瞬間のみが、彼が消滅することを恐れる、唯一AFRAID状態になるときなのではないか。

 

 

 

そしてFINAL DUETが始まる。MARIとの最後のリサイタルを開いて、自身を許せるようになったとき。自分を殺そうとする自責の念と戦わなくても生きられるようになったとき、OMORIは消滅する。いや、消滅したのではなく、別人格という"cursed form"を取ることなく、自然にSUNNYの元に戻ったのだ。

 

今までOMORIをラスボス系主人公ってだけで、怖いやつだと思っていたが、実はどこまでもSUNNYのために頑張る存在だったんだな……と思いなおした。

いいゲームだ。

 

8/6追記

 もう一度一からリプレイして気づいたのだが、実はOMORIが高所恐怖症/蜘蛛恐怖症/水恐怖症であるという描写はない。確かにHEADSPACEのMARIやAUBREYたちは「OMORIは高いところetc.が苦手だよね?」と話しかけてくるが、OMORI自身がどんなふうに怖がっているかという描写はないのだ。*5

これは先ほど述べた「OMORIはSUNNYが操作するキャラクターである」という仮説を取り入れるとすんなり理解できる。OMORIは決して怖がらない(というかどういう感情をもっているのかわからない)が、操作するSUNNYが恐怖を感じて梯子や蜘蛛の巣に近づかないため、周りからはOMORIが怖がっているように見えているのだろう。

OTHERWORLDに至る梯子を昇れるようになったとき、出るメッセージは

"You are no longer afraid of heights." (あなたはもう高い場所が怖くない。)

であり、(ややこじつけ気味だが)OMORIが怖がっていない、とは書いていない。そしてその前の現実世界で高所恐怖症を克服したのはOMORIではなく、SUNNYだ。

 

また、NORTH LAKEでMARIと一緒に散歩をするシーンで言われる言葉、

"OMORI, I'm so proud of you.

You swam all the way here, even though you've always been terrified of water.

But there's still one big thing you're afraid of, isn't there? Something... a little bit harder to overcome."

「オモリ、あなたのことが本当に誇らしいわ。

いつも水を怖がっているのに、ずっとここまで泳いでくるなんて。

でもまだ一つとても怖がっていることがあるでしょう?何か……あと少しだけ克服するのが難しいものが」

 も、後の描写から克服しないといけないものが「MARIが死んだという事実」であることがわかる。それと向き合う必要があるのは現実世界にいるSUNNYであり、HEADSPACEにいるOMORIではない。

すなわち、このMARIはOMORIに話しかけているように見えて(なんといってもHEADSPACEにSUNNYはいないのだから)、実はOMORIの中のSUNNYに話しかけていると解釈できる。だから、最後に

 "It's not my place to say anymore, but...I hope you're still there... SUNNY... I really miss you."

「これ以上何かを言うべきではないと思うけど、でも…まだそこにいてくれたら…サニー…あなたに本当に会いたいわ」

 と言われるのだろう。

 

 

このゲームの名前は「OMORI」である。実際は、SUNNY(あるいはプレイヤーの名付ける主人公)が中心であっても、このゲームはOMORIというゲームだ。

だから、物語はSUNNYが真実を告白したとき、OMORIを巡る物語が終ったときに終わる。(あるいは、OMORI/SUNNYがこの世からいなくなったときに終わる)

Good Endingでのタイトル画面こそが、OMORIの本当の正体を表しているのではないか。

*1:ちなみにSecret Endingに到達すると、入院したBASILの左目に痣があり、SUNNYが殴ったらしいことが示唆される。これ、BASILが剪定ばさみでSUNNYの左目を刺したことを考えると、SUNNYもナイフを持っているつもりでBASILの目を刺そうとしたんじゃないだろうか。実際BASIL戦だとSUNNYの攻撃がナイフで刺した時と同じ音がなってるし……。

*2:ブラックスペースのバジルが「僕は生き延びるのは得意なんだ!」と言っていたが、恐らくそれが最も当てはまるのはOMORIのほうだ。

*3:ゲームフォルダ中のムービー名から

*4:公式漫画見る感じだと、SUNNYはWHITE SPACEでずっとプレイしているんだろうか?

*5:メタ的なことを言うと、元々はOMORIにもAFRAID用の画像が用意されていたが、「OMORIはAFRAID状態にならない」という風に仕様が変わったため使われなかった。ここからも「OMORIは恐怖を感じない人物として設定されている」という考察の裏付けをとることができる